Staff Voice
スタッフボイス|イデアプラス
テレビ番組の制作現場を支える通訳者・翻訳者の声を掲載しています。
2026/05/25
テレビ番組の映像翻訳で大切にしていること
「映像翻訳」と聞くと、映画やドラマの字幕翻訳を思い浮かべる方も多いかもしれません。完成した映像やスクリプトをもとに、字幕の文字数や表示時間など、定められたルールの中で訳していく仕事です。もちろん、そこにも独自の難しさがあります。
一方、テレビ番組の映像翻訳では、扱う素材の状態が毎回違います。インタビュー、会見、ロケ素材、報道・ドキュメンタリーの取材映像など、基本的に台本やキャプションはありません。
素材の音声が聞き取りづらいこともあります。話者の訛りが強い、滑舌がはっきりしない、周囲の音が入っている、複数人が重なって話している。そうした素材と向き合いながら、できる限り正確に内容を拾っていく必要があります。
だからこそ、自分の聞き取り力が大切な武器になります。音声を正確に拾う力に加え、話者の背景を理解する力、専門用語や固有名詞を確認する語彙力、前後の流れを読み取る理解力、そして誤訳を防ぐ慎重さも求められます。
そして、映像翻訳である以上、音声だけでなく、映像から受け取る情報も大切です。話している人の表情、沈黙、視線、やるせなさ、喜び、楽しさ、辛さ、独特の間、場面の躍動感。言葉だけでは拾いきれないものが、映像の中に表れていることがあります。
テレビ番組の映像翻訳では、そうした非言語の情報も受け取りながら、話し手の思いや状況が視聴者に伝わる訳を考えていきます。
また、聞き取った言葉をそのまま訳すだけでなく、固有名詞や地名、肩書、専門用語などを確認する調べる力も欠かせません。音として聞こえた言葉が本当に正しいのか、前後の発言や取材テーマと照らして自然かを一つひとつ確かめることも、誤訳を防ぐ大切な作業です。
もちろん、どうしても聞き取れない箇所は「聞き取り不可」と明記します。その部分がそのままオンエアされることはありません。むしろ、聞き取れないものを推測で訳してしまう方が危険です。間違った聞き取りが翻訳に反映されると、誤った内容が全国の視聴者に届いてしまう可能性があるからです。
だからこそ、テレビ番組の映像翻訳では、「聞き取れること」と同じくらい、「分からないことを正直に示すこと」も大切な責任だと考えています。
また、番組の放送日から逆算して作業するため、時間との闘いになることもあります。朝の情報番組などでは、深夜から早朝にかけて作業することもあります。限られた時間の中で、正確さと分かりやすさの両方を意識しながら、視聴者に伝わる訳を整えていく。それが、テレビ番組の映像翻訳の難しさであり、面白さでもあります。
つい先ほどまで向き合っていた翻訳が、その日のうちに番組の中で使われ、全国の視聴者に届くことがあります。
自分の訳した言葉が、番組の一部として放送される。
それは、テレビ番組の映像翻訳ならではの醍醐味だと思います。