Staff Voice
2026年ワールドカップを翻訳で支えて
テレビ番組の制作現場を支える通訳者・翻訳者の声を掲載しています。
2026/07/20
2026年のFIFAワールドカップが、スペインの優勝で幕を閉じました。
先ほど、スペイン代表とアルゼンチン代表の監督インタビューの翻訳を納品し、私たちのワールドカップもようやく終わったところです。
4年に一度の大会ですが、テレビ番組の映像翻訳を担当する私たちにとっては、普段以上に緊張感があり、忙しく、それだけに大きなやりがいを感じる期間でもあります。
大会前には、日本と同じグループにどの国が入るかによって、必要となる言語や翻訳者の体制が変わります。対戦国の選手や監督への取材、各国記者のリポート、現地サポーターへのインタビューなど、さまざまな映像素材の翻訳依頼が入るためです。
大会前の取材は、比較的早い段階で予定が分かることも多く、事前に翻訳者のスケジュールを確認しながら対応できます。
一方、ワールドカップ本番が始まると、各テレビ局が中継・取材する試合によって依頼内容が決まります。代表チームの前日会見や、試合後の選手・監督インタビューなど、放送まで時間のない素材が届くことも少なくありません。
今回のワールドカップで実際にご依頼いただいた中で、最も印象に残っているのが、スペイン対ベルギー戦です。
サッカーファンにとっては屈指の好カードですが、翻訳会社の立場から見ると、一つの素材に複数の言語が混在する可能性がある、緊張感の強いカードでもあります。
スペイン代表の場合、会見やインタビューではスペイン語が中心です。英語で質問する記者がいれば、選手や監督が英語で回答することもありますが、基本的にはスペイン語と英語を想定しておけば対応できます。
一方、ベルギー代表は多言語環境のチームです。
今回のご依頼が入った段階で、まずスペイン語とフランス語の翻訳者を押さえました。スペイン代表にはスペイン語が必要であり、ベルギー代表の監督が聞き取りやすいフランス語で話すことも事前に分かっていたためです。
ただし、誰が会見に出席し、実際に何語を話すかは、映像が届くまで確定しません。
今回の素材では、監督がフランス語、選手がフラマン語、記者が英語で質問する場面がありました。さらに、スペイン側の記者がスペイン語で質問し、選手がスペイン語で答えることもあります。
つまり、一つの会見やインタビュー素材の中で、フランス語、フラマン語、英語、スペイン語の4言語に対応しなければならないケースがあるのです。
事前に想定できるスペイン語とフランス語の担当者は先に確保し、それ以外の言語については、会見映像が届き次第すぐに確認して、各言語の翻訳者へ連絡します。
テレビ局から素材が届くと、まず誰が会見やインタビューに出ているのか、どの部分で何語が話されているのかを確認します。そのうえで、それぞれの言語を誰に依頼するかを判断し、放送や編集に間に合うよう翻訳者を手配します。
時間がない場合は、言語ごとに担当を分け、複数の翻訳者へ同時に発注します。
ただし、この方法では、言語ごとに別々の翻訳原稿が仕上がります。番組スタッフの皆さんは、複数のファイルを開き、映像のタイムコードと照らし合わせながら内容を確認しなければなりません。
そこで、少しでも時間に余裕がある場合には、「翻訳者リレー」で原稿を仕上げることがあります。
最初の翻訳者が担当部分を翻訳した後、同じ映像と原稿を次の言語の翻訳者へ引き継ぎます。それぞれの翻訳者が、すでに入力されているタイムコードと翻訳を確認しながら、自分の担当部分を書き加えていきます。
こうすることで、言語ごとに分かれた複数の原稿ではなく、映像のタイムコード順にすべての発言が並んだ、一つの翻訳原稿として納品できます。
フランス語の発言の後に英語の質問が入り、続いてスペイン語の回答があった場合でも、映像の流れに沿って一つのファイルにまとまります。番組スタッフの皆さんにとっても、誰が、どのタイムコードで、何を話しているのかを確認しやすい成果物になります。
ただし、翻訳者リレーを行うには、各言語の翻訳者が順番に作業できるよう、事前にスケジュールを組んでおかなければなりません。
一人目の作業が遅れると、その後に控えている翻訳者の開始時間もずれてしまいます。素材の受け渡し時刻と、それぞれの作業時間を見込みながら、放送に間に合うよう全体を進行する必要があります。
翻訳の正確さだけでなく、試合カードから必要な言語を予測し、素材が届いたら実際に使われている言語を見極め、適切な翻訳者を手配する。そして、番組で使いやすい一つの原稿にまとめることも、映像翻訳会社の重要な仕事です。
約1か月にわたる大会では、急なご依頼や厳しいスケジュールもありましたが、今回も無事に、翻訳を通して番組を支えることができました。
ご依頼いただいた番組スタッフの皆さま、そして大会期間中、さまざまな言語の翻訳に対応してくださった翻訳スタッフの皆さん、本当にお疲れさまでした。